深くなる筈《はず》です。もっと大きなのもあります。〕
 日光の波日光の波、光の網と、水の網。
「ほこの穴こまん円けぢゃ。先生。」
 あゝいゝ、これはいゝ標本だ。こいつなら持って来いだ。
〔さあ、見て下さい。これはいゝ標本です。そら。この中に石ころが入ってませう。みんな円くなってるでせう。水ががりがり擦《こす》ったんです。そら。〕
 実にいゝ礫だ。まっ白だ。まん円だ水でぬれてゐる。取ってしまった。誰《たれ》かが又|掻《か》き廻す。もうない。あとは茶色だし少し角もある。あゝいゝな。こんなありがたい。
 あんまり溯る。もう帰らう。校長もあの路の岐《わか》れ目で待ってゐる。
〔ほお。戻れ。ほお。〕向ふの崖《がけ》は明るいし声はよく出ない。聞えないやうだ。市野川やぐんぐんのぼって行く。〔ほお、〕「戻れど。お。」「戻れ。」
 向いた向いた。一人向けばもういゝ。川を戻るよりはこゝからさっきの道へのぼった方がいゝ、傾斜もゆるく丁度のぼれさうだ。〔みんなそこからあの道へ出ろ。〕
 手を振った方がわかるな。わかったわかったわかったやうだ。市の川が崖の上のみちを見てゐる。
 うしろの滝の上で誰か叫んでゐる。
前へ 次へ
全18ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング