ふの岸の方にうつらう。
「先生この岩何す。」千葉だな。お父さんによく似てゐる。〔何に似てます。何でできてますか。〕だまってゐる。〔わかりませんか。礫岩《れきがん》です。礫岩です。凝灰質礫岩。〕
 及川だな。〔いゝですか。これは温泉の作用ですよ。この裂け目を通った温泉のために凝灰岩が変質を受けたんです。〕
 みんなわかるんだな。これは。向ふにも一つ滝があるらしい。うすぐろい岩の。みんなそこまで行かうと云ふのか。草原があって春木も積んである。ずゐぶん溯《のぼ》ったぞ。こゝは小さな段だ。
「あゝ云ふ岩のすき間のごと何て云ふのだたべな。習ったたんとも。」
〔やっぱり裂け目です。裂け目でいゝんです。〕習ったといふのは節理だな。節理なら多面節理、これを節理と云ふわけにはいかない。裂罅《れっか》だ。やっぱり裂け目でいゝんだ。
 壷穴《つぼあな》のいゝのがなくて困るな。少し細長いけれどもこれで説明しようか。elongated pot−hole〔こゝがどうしてかう掘れるかわかりますか。石ころ、礫《こいし》がこれを掘るのです。そら、水のために礫がごろごろするでせう。だんだん岩を掘るでせう。深いところが一層
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