もんだ。この浸蝕の柔らかさ。
 もう平らだ。さうだ。いつかもこゝを溯《のぼ》って行った。いゝや、此処《ここ》ぢゃない。けれどもずゐぶんよく似てゐるぞ。川の広さも両岸の崖、ところどころの洲《す》の青草。もう平らだ。みんな大分溯ったな。
〔こゝをごらんなさい。岩石の裂け目に沿って赤く色が変ってゐるでせう。裂け目のないところにも赤い条《すぢ》の通ってゐるところがあるでせう。この裂け目を温泉が通ったのです。温泉の作用で岩が赤くなったのです。こゝがずうっとつちの底だったときですよ。わかりますか。〕
 だまってゐる。波がうごき波が足をたゝく。日光が降る。この水を渉《わた》ることの快さ。菅木《すがき》がゐるな。いつものやうにじっとひとの目をみつめてゐる。
〔こゝをごらんなさい。岩に裂け目があるでせう。こゝを温泉が通って岩を変質させたのです。風化のためにも斯《か》う云ふ赤い縞《しま》はできます。けれどもこゝではほかのことから温泉の作用といふことがわかるのです。〕
 ずゐぶん上流まで行った。実際|斯《こ》んなに川床が平らで水もきれいだし山の中の第一流の道路だ。どこまでものぼりたいのはあたりまへだ。
 向
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