がある。崖《がけ》の茂みにはひって行く。これが羽山を越えて台に出るのかもわからない。帰りに登るとしようかな。いゝや。だめだ。曖昧《あいまい》だしそれにみんなも越えれまい。
「先生、この石何す。」一かけひろって持ってゐる。〔ふん。何だと思ひます。〕「何だべな。」〔凝灰岩です。こゝらはみんなさうですよ。浮岩質の凝灰岩。〕
 みんなさっきはあしをぬらすまいとしたんだが日が照るし水はきれいだし自分でも気がつかず川にはひったんだ。
 もうずんずん瀑《たき》をのぼって行く。cascade だ。こんな広い平らな明るい瀑はありがたい。上へ行ったらもっと平らで明るいだらう。けれども壷穴《つぼあな》の標本を見せるつもりだったが思ったくらゐはっきりはしてゐないな。多少失望だ。岩は何といふ円くなめらかに削られたもんだらう。水苔《みづごけ》も生えてゐる。滑るだらうか。滑らない。ゴム靴《ぐつ》の底のざりざりの摩擦がはっきり知れる。滑らない。大丈夫だ。さらさら水が落ちてゐる。靴はビチャビチャ云ってゐる。みんないゝ。それにみんなは後からついて来る。
 苔がきれいにはえてゐる。実に円く柔らかに水がこの瀑のところを削った
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