た。
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ダーダーダーダーダースコダーダー
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 強い老人《ろうじん》らしい声が剣舞《けんばい》の囃《はや》しを叫《さけ》ぶのにびっくりして富沢《とみざわ》は目をさました。台所の方で誰《だれ》か三、四人の声ががやがやしているそのなかでいまの声がしたのだ。
 ランプがいつか心《しん》をすっかり細められて障子《しょうじ》には月の光が斜《なな》めに青じろく射《さ》している。盆《ぼん》の十六日の次《つぎ》の夜なので剣舞の太鼓《たいこ》でも叩《たた》いたじいさんらなのかそれともさっきのこのうちの主人《しゅじん》なのかどっちともわからなかった。
(踊《おど》りはねるも三十がしまいって、さ。あんまりじさまの浮《う》かれだのも見だぐなぃもんさ。)むっとしたような慓悍《ひょうかん》な三十台の男の声がした。そしてしばらくしんとした。
(雀《すずめ》百まで踊り忘《わす》れずでさ。)さっきの女らしい細い声が取《と》りなした。
(女《あね》※[#小書き平仮名こ、128−12]引ぱりも百までさ。)またその慓悍な声が刺《さ》すように云《い》った。そしてまたしんとした。そして
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