さっきから台所でことことやっていた二十《はたち》ばかりの眼《め》の大きな女がきまり悪《わる》そうに夕食を運《はこ》んで来た。その剥《は》げた薄《うす》い膳《ぜん》には干《ほ》した川魚を煮《に》た椀《わん》と幾片《いくへん》かの酸《す》えた塩漬《しおづ》けの胡瓜《きゅうり》を載《の》せていた。二人はかわるがわる黙《だま》って茶椀《ちゃわん》を替《か》えた。
(この家はあのおじいさんと今の女の人と二人切りなようだな。)膳が下げられて疲《つか》れ切ったようにねそべりながら斉田が低く云《い》った。
(うん。あの女の人は孫娘《まごむすめ》らしい。亭主《ていしゅ》はきっと礦山《こうざん》へでも出ているのだろう。)ひるの青金《あおがね》の黄銅鉱《おうどうこう》や方解石《ほうかいせき》に柘榴石《ざくろいし》のまじった粗鉱《そこう》の堆《たい》を考えながら富沢は云った。女はまた入って来た。そして黙って押入《おしい》れをあけて二枚のうすべりといの角枕《かくまくら》をならべて置《お》いてまた台所の方へ行った。
 二人はすっかり眠《ねむ》る積《つも》りでもなしにそこへ長くなった。そしてそのままうとうとし
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