こども》だ。
(どっちからお出《い》でになりました。)
(郡《ぐん》から土性調査《どせいちょうさ》をたのまれて盛岡《もりおか》から来たのですが。)
(田畑《たはた》の地味《ちみ》のお調《しら》べですか。)
(まあそんなことで。)
老人は眉《まゆ》を寄《よ》せてしばらく群青《ぐんじょう》いろに染《そ》まった夕ぞらを見た。それからじつに不思議《ふしぎ》な表情《ひょうじょう》をして笑《わら》った。
(青金で誰《だれ》か申《もう》し上げたのはうちのことですが、何分《なにぶん》汚《きた》ないし、いろいろ失礼《しつれい》ばかりあるので。)(いいえ、何もいらないので。)
(それではそのみちをおいでください。)
老人はわずかに腰《こし》をまげて道と並行《へいこう》にそのまま谷をさがった。五、六歩行くとそこにすぐ小さな柾屋《まさや》があった。みちから一|間《けん》ばかり低《ひく》くなって蘆《あし》をこっちがわに塀《へい》のように編《あ》んで立てていたのでいままで気がつかなかったのだ。老人《ろうじん》は蘆《あし》の中につくられた四角なくぐりを通って家の横《よこ》に出た。二人はみちから家の前におりた。
前へ
次へ
全10ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング