せて北へ続《つづ》いていた。山の上では薄明穹《はくめいきゅう》の頂《いただき》が水色に光った。俄《にわ》かに斉田が立ちどまった。道の左側《ひだりがわ》が細い谷になっていてその下で誰《だれ》かが屈《かが》んで何かしていた。見るとそこはきれいな泉《いずみ》になっていて粘板岩《ねんばんがん》の裂《さ》け目から水があくまで溢《あふ》れていた。
(一寸《ちょっと》おたずねいたしますが、この辺《へん》に宿屋《やどや》があるそうですがどっちでしょうか。)
浴衣《ゆかた》を着《き》た髪《かみ》の白い老人《ろうじん》であった。その着こなしも風采《ふうさい》も恩給《おんきゅう》でもとっている古い役人《やくにん》という風だった。蕗《ふき》を泉《いずみ》に浸《ひた》していたのだ。
(宿屋ここらにありません。)
(青金《あおがね》の鉱山《こうざん》できいて来たのですが、何でも鉱山の人たちなども泊《と》めるそうで。)
老人《ろうじん》はだまってしげしげと二人の疲《つか》れたなりを見た。二人とも巨《おお》きな背嚢《はいのう》をしょって地図を首からかけて鉄槌《かなづち》を持《も》っている。そしてまだまるでの子供《
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