見ると紺三郎です。
 紺三郎なんかまるで立派な燕尾服《えんびふく》を着て水仙《すゐせん》の花を胸につけてまっ白なはんけちでしきりにその尖《とが》ったお口を拭《ふ》いてゐるのです。
 四郎は一寸《ちょっと》お辞儀をして云ひました。
「この間は失敬。それから今晩はありがたう。このお餅をみなさんであがって下さい。」
 狐の学校生徒はみんなこっちを見てゐます。
 紺三郎は胸を一杯に張ってすまして餅《もち》を受けとりました。
「これはどうもおみやげを戴《いただ》いて済みません。どうかごゆるりとなすって下さい。もうすぐ幻燈もはじまります。私は一寸失礼いたします。」
 紺三郎はお餅を持って向ふへ行きました。
 狐の学校生徒は声をそろへて叫びました。
「堅雪かんこ、凍《し》み雪しんこ、硬《かた》いお餅はかったらこ、白いお餅はべったらこ。」
 幕の横に、
「寄贈、お餅沢山、人の四郎氏、人のかん子氏」と大きな札が出ました。狐の生徒は悦《よろこ》んで手をパチパチ叩《たた》きました。
 その時ピーと笛《ふえ》が鳴りました。
 紺三郎がエヘンエヘンとせきばらひをしながら幕の横から出て来て丁寧にお辞儀をしました。
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