雪渡り
宮沢賢治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)小狐《こぎつね》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)今|太右衛門《たゑもん》
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      雪渡り その一(小狐《こぎつね》の紺三郎)

 雪がすっかり凍って大理石よりも堅くなり、空も冷たい滑らかな青い石の板で出来てゐるらしいのです。
「堅雪かんこ、しみ雪しんこ。」
 お日様がまっ白に燃えて百合《ゆり》の匂《にほひ》を撒《ま》きちらし又雪をぎらぎら照らしました。
 木なんかみんなザラメを掛けたやうに霜でぴかぴかしてゐます。
「堅雪かんこ、凍《し》み雪しんこ。」
 四郎とかん子とは小さな雪沓《ゆきぐつ》をはいてキックキックキック、野原に出ました。
 こんな面白い日が、またとあるでせうか。いつもは歩けない黍《きび》の畑の中でも、すすきで一杯だった野原の上でも、すきな方へどこ迄《まで》でも行けるのです。平らなことはまるで一枚の板です。そしてそれが沢山の小さな小さな鏡のやうにキラキラキラキラ光るのです。
「堅雪かんこ、凍《し》み雪しんこ。」
 二人は森の近くまで来ました。大きな柏《かしは》
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