。そら僕ら囃《はや》してやらうか。堅雪かんこ、凍《し》み雪しんこ、狐の子ぁ嫁ぃほしいほしい。」と叫びました。
 お月様は空に高く登り森は青白いけむりに包まれてゐます。二人はもうその森の入口に来ました。
 すると胸にどんぐりのきしゃうをつけた白い小さな狐の子が立って居て云ひました。
「今晩は。お早うございます。入場券はお持ちですか。」
「持ってゐます。」二人はそれを出しました。
「さあ、どうぞあちらへ。」狐の子が尤《もっと》もらしくからだを曲げて眼をパチパチしながら林の奥を手で教へました。
 林の中には月の光が青い棒を何本も斜めに投げ込んだやうに射《さ》して居《を》りました。その中のあき地に二人は来ました。
 見るともう狐の学校生徒が沢山集って栗《くり》の皮をぶっつけ合ったりすまふをとったり殊にをかしいのは小さな小さな鼠《ねずみ》位の狐の子が大きな子供の狐の肩車に乗ってお星様を取らうとしてゐるのです。
 みんなの前の木の枝に白い一枚の敷布がさがってゐました。
 不意にうしろで
「今晩は、よくおいででした。先日は失礼いたしました。」といふ声がしますので四郎とかん子とはびっくりして振り向いて
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