して今日も寒水石《かんすゐせき》のやうに堅く凍りました。
四郎は狐の紺三郎との約束を思ひ出して妹のかん子にそっと云ひました。
「今夜狐の幻燈会なんだね。行かうか。」
するとかん子は、
「行きませう。行きませう。狐こんこん狐の子、こんこん狐の紺三郎。」とはねあがって高く叫んでしまひました。
すると二番目の兄さんの二郎が
「お前たちは狐のとこへ遊びに行くのかい。僕も行きたいな。」と云ひました。
四郎は困ってしまって肩をすくめて云ひました。
「大兄《おほにい》さん。だって、狐の幻燈会は十一歳までですよ、入場券に書いてあるんだもの。」
二郎が云ひました。
「どれ、ちょっとお見せ、ははあ、学校生徒の父兄にあらずして十二歳以上の来賓は入場をお断わり申し候《そろ》、狐なんて仲々うまくやってるね。僕はいけないんだね。仕方ないや。お前たち行くんならお餅《もち》を持って行っておやりよ。そら、この鏡餅がいゝだらう。」
四郎とかん子はそこで小さな雪沓《ゆきぐつ》をはいてお餅をかついで外に出ました。
兄弟の一郎二郎三郎は戸口に並んで立って、
「行っておいで。大人の狐にあったら急いで目をつぶるんだよ
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