い。」
 すると向ふで、
「北風ぴいぴい風三郎、西風どうどう又三郎」と細いいゝ声がしました。
 狐の子の紺三郎がいかにもばかにしたやうに、口を尖《とが》らして云ひました。
「あれは鹿の子です。あいつは臆病ですからとてもこっちへ来さうにありません。けれどもう一遍叫んでみませうか。」
 そこで三人は又叫びました。
「堅雪かんこ、凍《し》み雪しんこ、しかの子ぁ嫁《よめい》ほしい、ほしい。」
 すると今度はずうっと遠くで風の音か笛の声か、又は鹿の子の歌かこんなやうに聞えました。
「北風ぴいぴい、かんこかんこ
    西風どうどう、どっこどっこ。」
 狐が又ひげをひねって云ひました。
「雪が柔らかになるといけませんからもうお帰りなさい。今度月夜に雪が凍ったらきっとおいで下さい。さっきの幻燈をやりますから。」
 そこで四郎とかん子とは
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」と歌ひながら銀の雪を渡っておうちへ帰りました。
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」

      雪渡り その二(狐小学校の幻燈会)

 青白い大きな十五夜のお月様がしづかに氷《ひ》の上《かみ》山から登りました。
 雪はチカチカ青く光り、そ
前へ 次へ
全16ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング