みんなはしんとなりました。
「今夜は美しい天気です。お月様はまるで真珠のお皿です。お星さまは野原の露がキラキラ固まったやうです。さて只今《ただいま》から幻燈会をやります。みなさんは瞬《またたき》やくしゃみをしないで目をまんまろに開いて見てゐて下さい。
それから今夜は大切な二人のお客さまがありますからどなたも静かにしないといけません。決してそっちの方へ栗《くり》の皮を投げたりしてはなりません。開会の辞です。」
みんな悦んでパチパチ手を叩きました。そして四郎がかん子にそっと云ひました。
「紺三郎さんはうまいんだね。」
笛がピーと鳴りました。
『お酒をのむべからず』大きな字が幕にうつりました。そしてそれが消えて写真がうつりました。一人のお酒に酔った人間のおぢいさんが何かをかしな円いものをつかんでゐる景色です。
みんなは足ぶみをして歌ひました。
キックキックトントンキックキックトントン
凍《し》み雪しんこ、堅雪かんこ、
野原のまんぢゅうはぽっぽっぽ
酔ってひょろひょろ太右衛門《たゑもん》が
去年、三十八たべた。
キックキックキックキックトントントン
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