写真が消えました。四郎はそっとかん子に云ひました。
「あの歌は紺三郎さんのだよ。」
別に写真がうつりました。一人のお酒に酔った若い者がほほの木の葉でこしらへたお椀《わん》のやうなものに顔をつっ込んで何か喰べてゐます。紺三郎が白い袴《はかま》をはいて向ふで見てゐるけしきです。
みんなは足踏みをして歌ひました。
キックキックトントン、キックキック、トントン、
凍《し》み雪しんこ、堅雪かんこ、
野原のおそばはぽっぽっぽ、
酔ってひょろひょろ清作が
去年十三ばい喰べた。
キック、キック、キック、キック、トン、トン、トン。
写真が消えて一寸《ちょっと》やすみになりました。
可愛らしい狐《きつね》の女の子が黍団子《きびだんご》をのせたお皿を二つ持って来ました。
四郎はすっかり弱ってしまひました。なぜってたった今|太右衛門《たゑもん》と清作との悪いものを知らないで喰べたのを見てゐるのですから。
それに狐の学校生徒がみんなこっちを向いて「食ふだらうか。ね。食ふだらうか。」なんてひそひそ話し合ってゐるのです。かん子ははづかしくてお皿を手に持ったまゝまっ赤
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