はないかとまた云ひやがるんです。ないない。帰れと云ひましたら仕方なく戻って行きました。そいつをいつの間にどこをまはってこゝへ入ったかもうこいつはきっと税務署のまはしものです」
「うん。さう云へばどうもおれにもつらに見おぼえがある。表へ引っぱり出してみろ。てめへは行って番所に居ろ。」社長の名誉村長が云った。
「立てこの野郎」署長はえり首をつかまへられて猫のやうに引っぱり出された。おもてへ出て見ると日光は実に暖かくぽかぽか飴《あめ》色に照ってゐた。(おれが炭焼がまに入れられて炭化されてもお日さまはやっぱりこんなにきれいに照ってゐるんだなあ。)署長はぽっと夢のやうに考へた。
「何だこいつは税務署長ぢゃないか。」名誉村長はびっくりしたやうに叫んだ。それからみんなはにゅうと遁げるやうなかたちになった。署長はもうすっかり決心してすっくと立ちあがった。
「いかにもおれは税務署長だ。きさまらはよくも国家の法律を犯してこんな大それたことをしたな。おれは早くからにらんでゐたのだ。もうすっかり証拠があがってゐる。おれのことなどは潰《つぶ》すなり灼《や》くなり勝手にしろ。もう準備はちゃんとできてゐる。きさまた
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