手を叩《たた》いて笑ったやつはみんな同類なのだ。あの村半分以上引っ括《くく》らなければならない。もうとても大変だ)署長はあぶなく倒れさうになった。その時だ、何か黄いろなやうなものがさっとうしろの方で光った。
見ると小屋の入口の扉《と》があいて二人の黒い人かげがこっちへ入って来てゐるではないか。税務署長はちょっと鹿踊《ししをど》りのやうな足つきをしたがとっさにふっとアセチレンの火を消した。そしてそろそろとあの十五本の暗い酒だるのかげの方へ走った。足音と語《ことば》ががんがん反響してやって来た。「いぬだいぬだ。」「かくれてるぞかくれてるぞ。」「ふんじばっちまへ。」「おい、気を付けろ、ピストルぐらゐ持ってるぞ。」ズドンと一発やりたいなと署長は思った。とたん、アセチレンの火が向ふでとまった。青じろいいやな焔《ほのほ》をあげながらその火は注意深くこっちの方へやって来た。「酒だるのうしろだぞ」二人は這《は》ふやうにそろそろとやって来た。
署長はくるくると樽の間をすりまはった。
そしたらたうとう桶《をけ》と桶の間のあんまりせまい処へはさまってのくも引くもできなくなってしまった。
アセチレンの
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