はそこへ爪《つめ》を入れて押し上げて見たらカラッと硝子《ガラス》は上にのぼった。もう有頂天になって中へ飛び込んで見るとくらくて急には何も見えなかったががらんとした何もない室《へや》だった。煙突の出てるのは次の室らしかった。急いでそっちへかけて行って見たらあったあったもう径二|米《メートル》ほどの大きな鉄釜《てつがま》がちゃんと煉瓦《れんぐゎ》で組んで据ゑつけられてゐる。署長は眼をこすってよく室の中を見まはした。隅《すみ》の棚《たな》のとこにアセチレン燈が一つあった。マッチも添へてあった。すばやくそれをおろしてみたらたったいま使ったらしくまだあつかった。栓《せん》をねぢって瓦斯《ガス》を吹き出させ火をつけたら室の中は俄《には》かに明るくなった。署長はまるで突貫する兵隊のやうな勢でその奥の室へ入った。そこは白い凝灰岩をきり開いた室でたしか四十坪はあると署長は見てとった。奥の方には二十石入の酒樽が十五本ばかりずらっとならび横には麹室《かうじむろ》らしい別の室さへあったのだ。おまけにビューレットも純粋培養の乳酸菌もピペットも何から何まで実に整然とそろってゐたのだ。(あゝもうだめだ、おれの講演を
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