算したときは荷馬車の上はもう樽《たる》でぎっしりだった。すると三人がそれへ小屋の横から松の生枝をのせたりかぶせたりし出した。
見る間にすっかり縛られて車が青くなり樽が見えなくなってもう誰《たれ》が見ても山から松枝をテレピン工場へでも運ぶとしか見えなくなった。荷馬車がうごき出した。馬がじっさい蹄《ひづめ》をけるやうにし、よほど重さうに見えた。するとさっきの若い男は荷馬車のあとへついた。それから十間ばかり行く間一番おしまひに小屋から出た男は腕を組んで立って待ってゐたが俄《には》かに歩き出してやっぱりついて行った。(実に巧妙だ。一体こんなことをいつからやってゐたらう。さあもうあの小屋に誰も居ない、今のうちにすっかりしらべてしまはう、証拠書類もきっとある。)税務署長は風のやうに三角山のてっぺんから小屋をめがけてかけおりた。ところが小屋の入口はちゃんと洋風の錠が下りてゐたのだ。(さあもういよいよ誰も居ない。あいつが村まで行って帰るまでどうしても二時間はかゝる。どこからか入らなけぁならない。)税務署長は狐《きつね》のやうにうろうろ小屋のまはりをめぐった。すると一とこ窓が一分ばかりあいてゐた。署長
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