いゝや、北の輝《てる》ぢゃない。断じてさうでない。そのいゝ酒がどこから出来てゐるかどの県から入ってるかそれをよくしらべに君をたのんだのだ。けれどもそしてそれからあと七日君はいったい何をして居たのだ。」
「それからあとは毎日林の中や谷をあるいて山地密造酒を探して居りました。」
「あったか。」
「ありませんでした。」
「見給へ。そんな藪《やぶ》の中にこっそり作るやうなそんなのぢゃない。どこか床下をほるかなんかしても少し大きくやってゐるだらうとはじめから僕が注意して置いたぢゃないか。」
 デンドウイ属はもう頭を垂れてしまひました。そのやつれた青い顔を見ると署長もまた少し気の毒になって来ました。
「いや、よろしい。帰ってやすみ給へ。ご苦労でした。シラトリ君に一寸《ちょっと》来いと云って呉れ給へ。」
 デンドウイ属はしほしほ出て行きました。間もなく、例のシラトリ属がすまし込んで入って来ました。
「君、ユグチュユモトへ行ってくれ給へ。却《かへ》ってそのまゝの方がいゝ。あのね、この前の村会議員のとこへ行ってね、僕からと云ふ口上でね、先《せん》ころはごちそうをいたゞいて実にありがたう、と、ね、その節席
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