のちらしを二百枚も貰ひたまへ。そいつを持って入って行くんだ。君の顔は誰《たれ》も知ってやしない。どうもあの村はわからないとこがある。どうも誰かがどこかで一斗や二斗でなしにつくってゐる。一つ豪胆にうまくやって呉れ給へ。」
「は、畏《かしこ》まりました。」
デンドウイ属はもう胸がわくわくしました。うまく見付けて帰って来よう。そしたら月給だってもうきっと三円はあがる、ひとつまるっきり探偵風にやってやらう。
「概算旅費を受け取って行きたまへ。」署長はまた云ひました。
「ありがたうございます。」デンドウイ属は礼をして自分の席へ帰ってそれから会計へ行って七日間の概算旅費を受け取って自分の下宿へ帰って行きました。
さて八日目の朝署長が役所へ出て出勤簿を検査してそれから机の上へ両手を重ねてふうと一つ息をしたとき扉《と》がかたっと開いてデンドウイ属があの八日前の白服のまゝでまた入って来ました。どうもその顔がひどくやつれて見えました。署長は思はず椅子《いす》をかたっと云はせました。
「どうだったね、少しはわかりましたか。」心配さうにそれにまたにこにこしながら訊《き》いたのです。
「どうもいけませんでし
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