立ちあがりました。
「もうお帰りですか。まあまあ。」村長やみんなが立って留めようとしたときそこはもう商売で署長と白鳥属とはまるで忍術のやうに座敷から姿を消し台所にあった靴《くつ》をつまんだと思ふともう二人の自転車は暗い田圃《たんぼ》みちをときどき懐中電燈をぱっぱっとさせて一目散にハーナムキヤの町の方へ走ってゐたのです。
三、署長室の策戦
次の日税務署長は役所へ出て自分の室《へや》に入り出勤簿を検査しますとチリンチリンと卓上ベルを鳴らして給仕を呼び「デンドウイを呼べ。」とあごで云ひつけました。
すぐ白服のデンドウイ属がいかにも敬虔《けいけん》に入って来ました。
「まあ掛け給《たま》へ。」署長はやさしく云って話の口をきりました。
「ユグチュユモトの村へ出張して呉《く》れ給へ。」
「は、」
「変装して行って貰《もら》ひたいな。一寸《ちょっと》売薬商人がいゝだらう。あの千金丹の洋傘《かうもりがさ》があった筈《はず》だね。」
「は、ございます。」
「ぢゃ、ライオン堂へ行ってこれでウ※[#小書き片仮名ヰ、138−4]スキーを一本買ってねそれから広告をくばってやるからと云って何か
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