て、いまのぼつてきたばかりの雪童子の足もとに落ちました。
「ありがたう。」雪童子はそれをひろひながら、白と藍《あゐ》いろの野はらにたつてゐる、美しい町をはるかにながめました。川がきらきら光つて、停車場からは白い煙もあがつてゐました。雪童子は眼を丘のふもとに落しました。その山裾《やますそ》の細い雪みちを、さつきの赤《あか》毛布《けつと》を着た子供が、一しんに山のうちの方へ急いでゐるのでした。
「あいつは昨日、木炭《すみ》のそりを押して行つた。砂糖を買つて、じぶんだけ帰つてきたな。」雪童子はわらひながら、手にもつてゐたやどりぎの枝を、ぷいつとこどもになげつけました。枝はまるで弾丸《たま》のやうにまつすぐに飛んで行つて、たしかに子供の目の前に落ちました。
子供はびつくりして枝をひろつて、きよろきよろあちこちを見まはしてゐます。雪童子はわらつて革むちを一つひゆうと鳴らしました。
すると、雲もなく研《みが》きあげられたやうな群青《ぐんじやう》の空から、まつ白な雪が、さぎの毛のやうに、いちめんに落ちてきました。それは下の平原の雪や、ビール色の日光、茶いろのひのきでできあがつた、しづかな奇麗な日
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