曜日を、一そう美しくしたのです。
 子どもは、やどりぎの枝をもつて、一生けん命にあるきだしました。
 けれども、その立派な雪が落ち切つてしまつたころから、お日さまはなんだか空の遠くの方へお移りになつて、そこのお旅屋で、あのまばゆい白い火を、あたらしくお焚《た》きなされてゐるやうでした。
 そして西北《にしきた》の方からは、少し風が吹いてきました。
 もうよほど、そらも冷たくなつてきたのです。東の遠くの海の方では、空の仕掛けを外したやうな、ちひさなカタツといふ音が聞え、いつかまつしろな鏡に変つてしまつたお日さまの面《めん》を、なにかちひさなものがどんどんよこ切つて行くやうです。
 雪童子《ゆきわらす》は革むちをわきの下にはさみ、堅く腕を組み、唇《くちびる》を結んで、その風の吹いて来る方をじつと見てゐました。狼《おいの》どもも、まつすぐに首をのばして、しきりにそつちを望みました。
 風はだんだん強くなり、足もとの雪は、さらさらさらさらうしろへ流れ、間もなく向ふの山脈の頂に、ぱつと白いけむりのやうなものが立つたとおもふと、もう西の方は、すつかり灰いろに暗くなりました。
 雪童子の眼は、鋭く燃
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