た。その空からは青びかりが波になつてわくわくと降り、雪狼どもは、ずうつと遠くで焔《ほのほ》のやうに赤い舌をべろべろ吐いてゐます。
「しゆ、戻れつたら、しゆ、」雪童子がはねあがるやうにして叱《しか》りましたら、いままで雪にくつきり落ちてゐた雪童子の影法師は、ぎらつと白いひかりに変り、狼どもは耳をたてて一さんに戻つてきました。
「アンドロメダ、
 あぜみの花がもう咲くぞ、
 おまへのラムプのアルコホル、
 しゆうしゆと噴かせ。」
 雪童子《ゆきわらす》は、風のやうに象の形の丘にのぼりました。雪には風で介殻《かひがら》のやうなかたがつき、その頂には、一本の大きな栗《くり》の木が、美しい黄金《きん》いろのやどりぎのまりをつけて立つてゐました。
「とつといで。」雪童子が丘をのぼりながら云《い》ひますと、一疋の雪狼《ゆきおいの》は、主人の小さな歯のちらつと光るのを見るや、ごむまりのやうにいきなり木にはねあがつて、その赤い実のついた小さな枝を、がちがち噛《か》じりました。木の上でしきりに頸《くび》をまげてゐる雪狼の影法師は、大きく長く丘の雪に落ち、枝はたうとう青い皮と、黄いろの心《しん》とをちぎられ
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