つき》。見だぐなぃ。どこさでもけづがれ。びっき。)嘉吉はまるで落《お》ちはじめたなだれのように膳《ぜん》を向《むこ》うへけ飛《と》ばした。おみちはとうとううつぶせになって声をあげて泣《な》き出した。
(何だぃ。あったな雨|降《ふ》れば無《な》ぐなるような奴凧《ひとつこぱだ》こさ、食えの申《もう》し訳《わ》げなぃの機嫌《きげん》取《と》りやがて。)嘉吉はまたそう云ったけれどもすこしもそれに逆《さから》うでもなくただ辛《つら》そうにしくしく泣いているおみちのよごれた小倉《こくら》の黒いえりや顫《ふる》うせなかを見ていると二人とも何年ぶりかのただの子供《こども》になってこの一日をままごとのようにして遊《あそ》んでいたのをめちゃめちゃにこわしてしまったようでからだが風と青い寒天《かんてん》でごちゃごちゃにされたような情《なさけ》ない気がした。
(おみち何でぁその年してでわらすみだぃに。起《お》ぎろったら。起ぎで片付《かたづ》げろったら。)
 おみちは泣《な》きじゃくりながら起きあがった。そしてじぶんはまだろくに食べもしなかった膳《ぜん》を片付けはじめた。
 嘉吉《かきち》はマッチをすってたばこ
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