は顔を赤くしてそれを押《お》し戻《もど》した。
(もうほんの。)学生はさっさと出て行った。(なあんだ。あと姥石まで煙草《たばこ》売るどこなぃも。ぼかげで置《お》いで来《こ》。)おみちは急《いそ》いで草履《ぞうり》をつっかけて出たけれども間もなく戻って来た。(脚《あし》早くて。とっても。)(若《わか》いがら律儀《りちぎ》だもな。)嘉吉《かきち》はまたゆっくりくつろいでうすぐろいてんを砕《くだ》いて醤油《しょうゆ》につけて食った。
おみちは娘《むすめ》のような顔いろでまだぼんやりしたように座《すわ》っていた。それは嘉吉がおみちを知ってからわずかに二|度《ど》だけ見た表情《ひょうじょう》であった。
(おらにもああいう若ぃづぎあったんだがな、ああいう面白《おもしろ》い目見る暇《ひま》なぃがったもな。)嘉吉が云《い》った。
(あん。)おみちはまだぼんやりして何か考えていた。
嘉吉はかっとなった。
(じゃぃ、はきはきど返事《へんじ》せじゃ。何でぁ、あたな人形こさ奴《やつ》さぁすぐにほれやがて。)
(何云うべこの人ぁ。)おみちはさぁっと青じろくなってまた赤くなった。
(ええ糞《くそ》そのつら付《
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