しました。ちょっとお尋《たず》ねしますが、この上流《じょうりゅう》に水車がありましょうか。)若《わか》いかばんを持《も》って鉄槌《かなづち》をさげた学生だった。(さあ、お前さんどこから来なすった。)嘉吉は少しむかっぱらをたてたように云った。
(仙台《せんだい》の大学のもんですがね。地図にはこの家がなく水車があるんです。)(ははあ。)嘉吉《かきち》は馬鹿《ばか》にしたように云《い》った。青年はすっかり照《て》れてしまった。
(まあ地図をお見せなさい。お掛《か》けなさい。)嘉吉は自分も前|小林区《しょうりんく》に居《い》たので地図は明るかった。学生は地図を渡《わた》しながら云われた通りしきいに腰掛《こしか》けてしまった。おみちはすぐ台所《だいどころ》の方へ立って行って手早く餅《もち》や海藻《かいそう》とささげを煮《に》た膳《ぜん》をこしらえて来て、
(おあが※[#小書き平仮名ん、134−7]な※[#小書き平仮名ん、134−7]え)と云った。
(こいつあ水車じゃありませんや。前じきそこにあったんですが掛手《かけて》金山の精錬所《せいれんじょ》でさ。)(ああ、金鉱《きんこう》を搗《つ》くあいつ
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