つもの峠《とうげ》を越《こ》えて海藻《かいそう》の〔数文字空白〕を着《き》せた馬に運《はこ》ばれて来たてんぐさも四角に切られて朧《おぼ》ろにひかった。嘉吉《かきち》は子供《こども》のように箸《はし》をとりはじめた。
ふと表《おもて》の河岸《かわぎし》でカーンカーンと岩を叩《たた》く音がした。二人はぎょっとして聞き耳をたてた。
音はなくなった。(今頃《いまごろ》探鉱《たんこう》など来るはずあなぃな。)嘉吉は豆の餅《もち》を口に入れた。音がこちこちまた起《おこ》った。
(この餅|拵《こさ》えるのは仙台領《せんだいりょう》ばかりだもな。)嘉吉はもうそっちを考えるのをやめて話しかけた。(はあ。)おみちはけれども気の無《な》さそうに返事《へんじ》してまだおもての音を気にしていた。
(今日《こんにち》はちょっとお訪《たず》ねいたしますが。)門口で若《わか》い水々しい声が云《い》った。(はあい。)嘉吉は用があったからこっちへ廻《まわ》れといった風で口をもぐもぐしながら云った。けれどもその眼《め》はじっとおみちを見ていた。
(あっ、こっちですか。今日は。ご飯中《はんちゅう》をどうも失敬《しっけい》
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