てまた云《い》った。(化石《かせき》をさがしに来たんです。)化石も嘉吉《かきち》は知っていた。(そこの岩にありしたか。)(ええ海百合《うみゆり》です。外でもとりました。この岩はまだ上流《じょうりゅう》にも二、三ヶ|所《しょ》出ていましょうね。)(はあはあ、出てます出てます。)学生は何でももう早く餅をげろ呑みにして早く生きたいようにも見えまたやっぱり疲《つか》れてもいればこういう款待《かんたい》に温《あたたか》さを感《かん》じてまだ止まっていたいようにも見えた。
(今日はそうせばとどこまで。)(ええ、峠《とうげ》まで行って引っ返《かえ》して来て県道《けんどう》を大船渡《おおふなと》へ出ようと思います。)
(今晩《こんばん》のお泊《とま》りは。)(姥石《うばいし》まで行けましょうか。)(はあ、ゆっくりでごあ※[#小書き平仮名ん、135−11]す。)(いや、どうも失礼《しつれい》しました。ほんとうにいろいろご馳走《ちそう》になって、これはほんの少しですが。)学生は鞄《かばん》から敷島《しきしま》を一つとキャラメルの小さな箱《はこ》を出して置《お》いた。(なあにす、そたなごとお前さん。)おみちは顔を赤くしてそれを押《お》し戻《もど》した。
(もうほんの。)学生はさっさと出て行った。(なあんだ。あと姥石まで煙草《たばこ》売るどこなぃも。ぼかげで置《お》いで来《こ》。)おみちは急《いそ》いで草履《ぞうり》をつっかけて出たけれども間もなく戻って来た。(脚《あし》早くて。とっても。)(若《わか》いがら律儀《りちぎ》だもな。)嘉吉《かきち》はまたゆっくりくつろいでうすぐろいてんを砕《くだ》いて醤油《しょうゆ》につけて食った。
 おみちは娘《むすめ》のような顔いろでまだぼんやりしたように座《すわ》っていた。それは嘉吉がおみちを知ってからわずかに二|度《ど》だけ見た表情《ひょうじょう》であった。
(おらにもああいう若ぃづぎあったんだがな、ああいう面白《おもしろ》い目見る暇《ひま》なぃがったもな。)嘉吉が云《い》った。
(あん。)おみちはまだぼんやりして何か考えていた。
 嘉吉はかっとなった。
(じゃぃ、はきはきど返事《へんじ》せじゃ。何でぁ、あたな人形こさ奴《やつ》さぁすぐにほれやがて。)
(何云うべこの人ぁ。)おみちはさぁっと青じろくなってまた赤くなった。
(ええ糞《くそ》そのつら付《
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