つき》。見だぐなぃ。どこさでもけづがれ。びっき。)嘉吉はまるで落《お》ちはじめたなだれのように膳《ぜん》を向《むこ》うへけ飛《と》ばした。おみちはとうとううつぶせになって声をあげて泣《な》き出した。
(何だぃ。あったな雨|降《ふ》れば無《な》ぐなるような奴凧《ひとつこぱだ》こさ、食えの申《もう》し訳《わ》げなぃの機嫌《きげん》取《と》りやがて。)嘉吉はまたそう云ったけれどもすこしもそれに逆《さから》うでもなくただ辛《つら》そうにしくしく泣いているおみちのよごれた小倉《こくら》の黒いえりや顫《ふる》うせなかを見ていると二人とも何年ぶりかのただの子供《こども》になってこの一日をままごとのようにして遊《あそ》んでいたのをめちゃめちゃにこわしてしまったようでからだが風と青い寒天《かんてん》でごちゃごちゃにされたような情《なさけ》ない気がした。
(おみち何でぁその年してでわらすみだぃに。起《お》ぎろったら。起ぎで片付《かたづ》げろったら。)
おみちは泣《な》きじゃくりながら起きあがった。そしてじぶんはまだろくに食べもしなかった膳《ぜん》を片付けはじめた。
嘉吉《かきち》はマッチをすってたばこを二つ三つのんだ。それから横《よこ》からじっとおみちを見るとまだ泣きたいのを無理《むり》にこらえて口をびくびくしながらぼんやり眼《め》を赤くしているのが酔《よ》った狸《たぬき》のようにでも見えた。嘉吉は矢もたてもたまらず俄《にわ》かにおみちが可哀《かわい》そうになってきた。
嘉吉はじっと考えた。おみちがさっきのあの顔いろはこっちの邪推《じゃすい》かもしれない。
及《およ》びもしないあんな男をいきなり一言《ひとこと》二言はなしてそんなことを考えるなんてあることでない。そうだとするとおれがあんな大学生とでも引け目なしにぱりぱり談《はな》した。そのおれの力を感《かん》じていたのかも知れない。それにおれには鉱夫《こうふ》どもにさえ馬鹿《ばか》にはされない肩《かた》や腕《うで》の力がある。あんなひょろひょろした若造《わかぞう》にくらべては何と云《い》ってもおみちにはおれのほうが勝《か》ち目《め》がある。
(おみち、ちょっとこさ来《こ》。)嘉吉《かきち》が云《い》った。
おみちはだまって来て首を垂《た》れて座《すわ》った。
(うなまるで冗談《じょうだん》づごと判《わが》らなぃで面白《おもしろ
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