してもそれがわからないらしく困ったように、
「奇体《きたい》だな。」と云いました。
その時丁度嘉ッコのお母さんが畦《あぜ》の向うの方から豆を抜きながらだんだんこっちへ来ましたので、嘉ッコは高く叫びました。
「母《があ》、こう云《ゆ》にしてガアガアど聞えるものぁ何だべ。」
「西根山《にしねやま》の滝《たき》の音さ。」お母さんは豆の根の土をばたばた落しながら云いました。二人は西根山の方を見ました。けれどもそこから滝の音が聞えて来るとはどうも思われませんでした。
お母さんが向うへ行って今度はおばあさんが来ました。
「ばさん。こう云《ゆ》にしてガアガアコーコーど鳴るものぁ何だべ。」
おばあさんはやれやれと腰《こし》をのばして、手の甲《こう》で額を一寸《ちょっと》こすりながら、二人の方を見て云いました。
「天《あま》の邪鬼《しゃぐ》の小便《しょんべ》の音さ。」
二人は変な顔をしながら黙《だま》ってしばらくその音を呼び寄せて聞いていましたが、俄《にわ》かに善コがびっくりする位叫びました。
「ほう、天の邪鬼の小便ぁ永ぃな。」
そこで嘉ッコが飛びあがって笑っておばあさんの所に走って行っていい
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