ぐらっとゆれ、みんなはぼかっとして呆れてしまいました。猫は嘉ッコの手から滑《すべ》り落ちて、ぶるるっとからだをふるわせて、それから一目散にどこかへ走って行ってしまいました。「ガリガリッ、ゴロゴロゴロゴロ。」音は続き、それからバァッと表の方が鳴って何か石ころのようなものが一散に降って来たようすです。
「お雷《らい》さんだ。」おじいさんが云いました。
「雹《ひょう》だ。」お父さんが云いました。ガアガアッというその雹の音の向うから、
「ホーォ。」ととなりの善コの声が聞えます。
「ホーォ。」と嘉ッコが答えました。
「ホーォォ。」となりで又叫んでいます。
「ホーォォー。」嘉ッコが咽喉《のど》一杯|笛《ふえ》のようにして叫びました。
 俄に外の音はやみ、淵《ふち》の底のようにしずかになってしまって気味が悪いくらいです。
 嘉ッコの兄さんは雹を取ろうと下駄《げた》をはいて表に出ました。嘉ッコも続いて出ました。空はまるで新らしく拭《ふ》いた鏡のようになめらかで、青い七日ごろのお月さまがそのまん中にかかり、地面はぎらぎら光って嘉ッコは一寸《ちょっと》氷砂糖をふりまいたのだとさえ思いました。
 南のずうっ
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