「わがなぃんちゃ。厭《や》んたん[#「ん」は小書き]ちゃ。」と嘉ッコが云ひました。
「寄越せったら、寄越せ。嘉ッコぉ。わあい。寄越せぢゃぁ。」
「厭《や》ん[#「ん」は小書き]たぁ、厭ん[#「ん」は小書き]たぁ、厭ん[#「ん」は小書き]たったら。」
「そだら撲《は》だぐぢゃぃ。いゝが。」嘉ッコの兄さんが向ふで立ちあがりました。おぢいさんがそれをとめ、嘉ッコがすばやく逃げかかったとき、俄《にはか》に途方もない、空の青セメントが一ぺんに落ちたといふやうなガタアッといふ音がして家はぐらぐらっとゆれ、みんなはぼかっとして呆《あき》れてしまひました。猫は嘉ッコの手から滑り落ちて、ぶるるっとからだをふるはせて、それから一目散にどこかへ走って行ってしまひました。「ガリガリッ、ゴロゴロゴロゴロ。」音は続き、それからバァッと表の方が鳴って何か石ころのやうなものが一散に降って来たやうすです。
「お雷《らい》さんだ。」おぢいさんが云ひました。
「雹《ひょう》だ。」お父さんが云ひました。ガアガアッと云ふその雹の音の向ふから、
「ホーォ。」ととなりの善コの声が聞えます。
「ホーォ。」と嘉ッコが答へました。
「
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