ホーォォ。」となりで又叫んでゐます。
「ホーォォー。」嘉ッコが咽喉《のど》一杯笛のやうにして叫びました。
俄《にはか》に外の音はやみ、淵《ふち》の底のやうにしづかになってしまって気味が悪いくらゐです。
嘉ッコの兄さんは雹を取らうと下駄《げた》をはいて表に出ました。嘉ッコも続いて出ました。空はまるで新らしく拭《ふ》いた鏡のやうになめらかで、青い七日ごろのお月さまがそのまん中にかゝり、地面はぎらぎら光って嘉ッコは一寸《ちょっと》氷砂糖をふりまいたのだとさへ思ひました。
南のずうっと向ふの方は、白い雲か霧かがかかり、稲光りが月あかりの中をたびたび白く渡ります。二人は雀《すずめ》の卵ぐらゐある雹の粒をひろって愕《おど》ろきました。
「ホーォ。」善コの声がします。
「ホーォ。」嘉ッコと嘉ッコの兄さんとは一所に叫びながら垣根の柳の木の下まで出て行きました。
となりの垣根からも小さな黒い影がプイッと出てこっちへやって参ります。善コです。嘉ッコは走りました。
「ほお、雹だぢゃぃ。大きぢゃぃ。こったに大きぢゃぃ。」
善コも一杯つかんでゐました。
「俺家《おらい》のなもこの位あるぢゃぃ。」
稲づ
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