。」
「ぢさん、許せゆるせ、取っ換へ[#「へ」は小書き]なぃはんて、ゆるせ。」嘉ッコは泣きさうになってあやまりました。そこでぢいさんは笑って自分も豆を抜きはじめました。

         ※

 火は赤く燃えてゐます。けむりは主におぢいさんの方へ行きます。
 嘉ッコは、黒猫《くろねこ》をしっぽでつかまへて、ギッと云ふくらゐに抱いてゐました。向ふ側ではもう学校に行ってゐる嘉ッコの兄さんが、鞄《かばん》から読本《とくほん》を出して声を立てて読んでゐました。
[#ここから3字下げ]
「松を火にたくゐろりのそばで
 よるはよもやまはなしがはづむ
 母が手ぎはのだいこんなます
 これがゐなかのとしこしざかな。第十三課……。」
[#ここで字下げ終わり]
「何したど。大根なますだど。としこしざがなだど。あんまりけづな書物だな。」とおぢいさんがいきなり云ひました。そこで嘉ッコのお父さんも笑ひました。
「なあにこの書物ぁ倹約教へだのだべも。」
 ところが嘉ッコの兄さんは、すっかり怒ってしまひました。そしてまるで泣き出しさうになって、読本を鞄にしまって、
「嘉ッコ、猫ぉおれさ寄越せぢゃ。」と云ひました。
前へ 次へ
全12ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング