。」
「ぢさん、許せゆるせ、取っ換へ[#「へ」は小書き]なぃはんて、ゆるせ。」嘉ッコは泣きさうになってあやまりました。そこでぢいさんは笑って自分も豆を抜きはじめました。
※
火は赤く燃えてゐます。けむりは主におぢいさんの方へ行きます。
嘉ッコは、黒猫《くろねこ》をしっぽでつかまへて、ギッと云ふくらゐに抱いてゐました。向ふ側ではもう学校に行ってゐる嘉ッコの兄さんが、鞄《かばん》から読本《とくほん》を出して声を立てて読んでゐました。
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「松を火にたくゐろりのそばで
よるはよもやまはなしがはづむ
母が手ぎはのだいこんなます
これがゐなかのとしこしざかな。第十三課……。」
[#ここで字下げ終わり]
「何したど。大根なますだど。としこしざがなだど。あんまりけづな書物だな。」とおぢいさんがいきなり云ひました。そこで嘉ッコのお父さんも笑ひました。
「なあにこの書物ぁ倹約教へだのだべも。」
ところが嘉ッコの兄さんは、すっかり怒ってしまひました。そしてまるで泣き出しさうになって、読本を鞄にしまって、
「嘉ッコ、猫ぉおれさ寄越せぢゃ。」と云ひました。
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