のでした。厭《あ》きる位知ってゐるのでした。
嘉ッコは林にはひりました。松の木や楢《なら》の木が、つんつんと光のそらに立ってゐます。
林を通り抜けると、そこが嘉ッコの家の豆畑でした。
豆ばたけは、今はもう、茶色の豆の木でぎっしりです。
豆はみな厚い茶色の外套《ぐわいたう》を着て、百列にも二百列にもなって、サッサッと歩いてゐる兵隊のやうです。
お日さまはそらのうすぐもにはひり、向ふの方のすゝきの野原がうすく光ってゐます。
黒い鳥がその空の青じろいはてを、なゝめにかけて行きました。
お母さんたちがやっと林から出て来ました。それから向ふの畑のへりを、もう二人の人が光ってこっちへやって参ります。一人は大きく一人は黒くて小さいのでした。
それはたしかに、隣りの善《ぜん》コと、そのお母さんとにちがひありません。
「ホー、善コォ。」嘉ッコは高く叫びました。
「ホー。」高く返事が響いて来ます。そして二人はどっちからもかけ寄って、丁度畑の堺《さかひ》で会ひました。善コの家の畑も、茶色外套の豆の木の兵隊で一杯です。
「汝《うな》ぃの家さ、今朝、霜降ったが。」と嘉ッコがたづねました。
「霜ぁ
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