が張ってあるやうな気がするのです。それですから、嘉ッコはますます大よろこびです。
けれどもたうとう、そのすきとほるガラス函《ばこ》もこはれました。それはお母さんやおばあさんがこっちへ来ましたので、嘉ッコが「ダア。」と云ひながら、両手をあげたものですから、小さなみそさざいどもは、みんなまるでまん円になって、ぼろんと飛んでしまったのです。
さてみそさざいも飛びましたし、嘉ッコは走って街道に出ました。
電信ばしらが、
「ゴーゴー、ガーガー、キイミイガアアヨオワア、ゴゴー、ゴゴー、ゴゴー。」とうなってゐます。
嘉ッコは街道のまん中に小さな腕を組んで立ちながら、松並木のあっちこっちをよくよく眺《なが》めましたが、松の葉がパサパサ続くばかり、そのほかにはずうっとはづれのはづれの方に、白い牛のやうなものが頭だか足だか一寸出してゐるだけです。嘉ッコは街道を横ぎって、山の畑の方へ走りました。お母さんたちもあとから来ます。けれども、この路《みち》ならば、お母さんよりおばあさんより、嘉ッコの方がよく知ってゐるのでした。路のまん中に一寸顔を出してゐる円いあばたの石ころさへも、嘉ッコはちゃんと知ってゐる
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