ん[#「ん」は小書き]ごぁ、今朝も戻て来なぃがべが。家《え》でぁこったに忙《いしょ》がしでば。」
「爺ん[#「ん」は小書き]ごぁ、今朝も戻て来なぃがべが。」嘉ッコがいきなり叫びました。
 おばあさんはわらひました。
「うん。けづ[#「けづ」に傍点]な爺《ぢ》ん[#「ん」は小書き]ごだもな。酔《よ》たぐれでばがり居で、一向仕事|助《す》けるもさないで。今日も町で飲んでらべぁな。うな|は《ハ》爺ん[#「ん」は小書き]ごに肖《に》るやなぃぢゃぃ。」
「ダゴダア、ダゴダア、ダゴダア。」嘉ッコはもう走って垣の出口の柳の木を見てゐました。
 それはツンツン、ツンツンと鳴いて、枝中はねあるく小さなみそさゞいで一杯でした。
 実に柳は、今はその細長い葉をすっかり落して、冷たい風にほんのすこしゆれ、そのてっぺんの青ぞらには、町のお祭りの晩の電気菓子のやうな白い雲が、静に翔《か》けてゐるのでした。
「ツツンツツン、チ、チ、ツン、ツン。」
 みそさざいどもは、とんだりはねたり、柳の木のなかで、じつにおもしろさうにやってゐます。柳の木のなかといふわけは、葉の落ちてカラッとなった柳の木の外側には、すっかりガラス
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