木の下に一人のはだしの子供《こども》がまっ白な貝細工《かいざいく》のような百合《ゆり》の十の花のついた茎《くき》をもってこっちを見ていました。
 大臣《だいじん》は進《すす》みました。
 「その百合《ゆり》をおれに売れ」
 「うん売るよ」子供《こども》は唇《くちびる》をまるくして答えました。
 「いくらだ」大臣《だいじん》が笑《わら》いながらたずねました。
 「十|銭《せん》」子供《こども》が大きな声で勢《いきおい》よく言《い》いました。
 「十|銭《せん》は高いな」大臣《だいじん》はほんとうに高いと思いながら言《い》いました。
 「五|銭《せん》」子供《こども》がまた勢《いきおい》よく答えました。
 「五|銭《せん》は高いな」大臣《だいじん》はまだほんとうに高いと思いながら笑《わら》って言《い》いました。
 「一|銭《せん》」子供《こども》が顔をまっ赤にして叫《さけ》びました。
 「そうか。一|銭《せん》。それではこれでいいだろうな」大臣《だいじん》は紅宝玉《ルビー》の首《くび》かざりをはずしました。
 「いいよ」子供《こども》は赤い石を見てよろこんで叫《さけ》びました。大臣《だいじ
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