》はもう咲《さ》いたか」
 「蕾《つぼみ》はみんなできあがりましてございます。秋風《あきかぜ》の鋭《するど》い粉《こな》がその頂上《ちょうじょう》の緑《みどり》いろのかけ金《がね》を削《けず》って減《へ》してしまいます。今朝《けさ》一斉《いっせい》にどの花も開くかと思われます」
 「うん。そうだろう。わしは正※[#「※」は「偏」のにんべんが行にんべん、第3水準1−84−34、84−15]知《しょうへんち》に百合《ゆり》の花をささげよう。大蔵大臣《おおくらだいじん》。お前は林へ行って百合《ゆり》の花を一茎《ひとくき》見つけて来てくれないか」
 王さまは黒髯《くろひげ》に埋《う》まった大蔵大臣《おおくらだいじん》に言《い》われました。
 「はい。かしこまりました」
 大蔵大臣《おおくらだいじん》はひとり林の方へ行きました。林はしんとして青く、すかして見ても百合《ゆり》の花は見えませんでした。
 大臣《だいじん》は林をまわりました。林の陰《かげ》に一|軒《けん》の大きなうちがありました。日がまっ白に照《て》って家は半分《はんぶん》あかるく夢《ゆめ》のように見えました。その家の前の栗《くり》の
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