つてゐないから、丸薬さへのめばもとへ戻る。おまへのすぐ横に、その黒い丸薬の瓶《びん》がある。」
「さうか。そいつはいゝ、それではすぐ呑《の》まう。しかし、おまへさんたちはのんでもだめか。」
「だめだ。けれどもおまへが呑んでもとの通りになつてから、おれたちをみんな水に漬《つ》けて、よくもんでもらひたい。それから丸薬をのめばきつとみんなもとへ戻る。」
「さうか。よし、引き受けた。おれはきつとおまへたちをみんなもとのやうにしてやるからな。丸薬といふのはこれだな。そしてこつちの瓶は人間が六神丸になるはうか。陳もさつきおれといつしよにこの水薬をのんだがね、どうして六神丸にならなかつたらう。」
「それはいつしよに丸薬を呑んだからだ。」
「ああ、さうか。もし陳がこの丸薬だけ呑んだらどうなるだらう。変らない人間がまたもとの人間に変るとどうも変だな。」
 そのときおもてで陳が、
「支那《しな》たものよろしいか。あなた、支那たもの買ふよろしい。」
と云ふ声がしました。
「ははあ、はじめたね。」山男はそつとかう云つておもしろがつてゐましたら、俄《には》かに蓋があいたので、もうまぶしくてたまりませんでした。そ
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