れでもむりやりそつちを見ますと、ひとりのおかつぱの子供が、ぽかんと陳の前に立つてゐました。
陳はもう丸薬を一つぶつまんで、口のそばへ持つて行きながら、水薬とコツプを出して、
「さあ、呑むよろしい。これながいきの薬ある。さあ呑むよろしい。」とやつてゐます。
「はじめた、はじめた。いよいよはじめた。」行李《かうり》のなかでたれかが言ひました。
「わたしビール呑む、お茶のむ、毒のまない。さあ、呑むよろしい。わたしのむ。」
そのとき山男は、丸薬を一つぶそつとのみました。すると、めりめりめりめりつ。
山男はすつかりもとのやうな、赤髪の立派なからだになりました。陳はちやうど丸薬を水薬といつしよにのむところでしたが、あまりびつくりして、水薬はこぼして丸薬だけのみました。さあ、たいへん、みるみる陳のあたまがめらあつと延びて、いままでの倍になり、せいがめきめき高くなりました。そして「わあ。」と云ひながら山男につかみかかりました。山男はまんまるになつて一生けん命|遁《に》げました。ところがいくら走らうとしても、足がから走りといふことをしてゐるらしいのです。たうとうせなかをつかまれてしまひました。
「
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