、草刈ってるがら、弁当持って行って来《こ》。な。それがら牛も連れてって、草|食《か》ぁせで来《こ》。な。兄な[#「な」は小書き]がら離れなよ。」
「あん、行《い》て来る。行て来る。今|草鞋《わらぢ》穿《は》ぐがら。」達二ははねあがりました。
 お母さんは、曲げ物の二つの櫃《ひつ》と、達二の小さな弁当とをいくつか紙にくるんで、それをみんな一緒に大きな布の風呂敷《ふろしき》に包み込みました。そして、達二が支度をして包みを背負ってゐる間に、おっかさんは牛をうまやから追ひ出しました。
「そだら行って来ら。」と達二は牛を受け取って云ひました。
「気ぃ付けで行げ。上で兄《あい》な[#「な」は小書き]がら離れなよ。」
「あん。」達二は、垣根のそばから、楊《やなぎ》の枝を一本折り、青い皮をくるくる剥《は》いで鞭《むち》を拵《こしら》へ、静に牛を追ひながら、上の原への路《みち》をだんだんのぼって行きました。
「ダーダー、スコ、ダーダー。
[#ここから3字下げ]
夜の頭巾《づきん》は 鶏《とり》の黒尾、
月のあかりは………、
[#ここで字下げ終わり]
 しっ、歩け、しっ。」
 日がカンカン照ってゐました。
前へ 次へ
全22ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング