種山ヶ原
宮沢賢治

−−−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)種山《たねやま》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)草|食《か》ぁせで

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから3字下げ]
−−

 種山《たねやま》ヶ原《はら》といふのは北上《きたかみ》山地のまん中の高原で、青黒いつるつるの蛇紋岩《じゃもんがん》や、硬い橄欖岩《かんらんがん》からできてゐます。
 高原のへりから、四方に出たいくつかの谷の底には、ほんの五六軒づつの部落があります。
 春になると、北上の河谷《かこく》のあちこちから、沢山の馬が連れて来られて、此《こ》の部落の人たちに預けられます。そして、上の野原に放されます。それも八月の末には、みんなめいめいの持主に戻ってしまふのです。なぜなら、九月には、もう原の草が枯れはじめ水霜が下りるのです。
 放牧される四月《よつき》の間も、半分ぐらゐまでは原は霧や雲に鎖《とざ》されます。実にこの高原の続きこそは、東の海の側からと、西の方からとの風や湿気《しっき》のお定まりのぶっつかり場所でしたから、
次へ
全22ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング