り降りしました。それから、黒い大きな路について、暫《しば》らく歩きました。
稲光が二度ばかり、かすかに白くひらめきました。草を焼く匂《にほひ》がして、霧の中を煙がほっと流れてゐます。
達二の兄さんが叫びました。
「おぢいさん。居だ、居だ。達二ぁ居だ。」
おぢいさんは霧の中に立ってゐて、
「あゝさうが。心配した、心配した。あゝ好《え》がった。おゝ達二。寒がべぁ、さあ入れ。」と云ひました。
半分に焼けた大きな栗の木の根もとに、草で作った小さな囲ひがあって、チョロチョロ赤い火が燃えてゐました。
兄さんは牛を楢《なら》の木につなぎました。
馬もひひんと鳴いてゐます。
「おゝむぞやな。な。何ぼが泣いだがな。さあさあ団子たべろ。食べろ。な。今こっちを焼ぐがらな。全体何処迄行ってだった。」
「笹長根《ささながね》の下《お》り口だ。」と兄が答へました。
「危ぃがった。危ぃがった。向ふさ降りだらそれっ切りだったぞ。さあ達二。団子喰べろ。ふん。まるっきり馬こみだぃに食ってる。さあさあ、こいづも食べろ。」
「おぢいさん。今のうぢに草片附げで来るべが。」と達二の兄さんが云ひました。
「うんにゃ。も
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