って来《こ》。」
「ふう。蟹を百疋。それ丈《だ》けでようがすかな。」
「それがら兎《うさぎ》を百疋捕って来《こ》。」
「ふう。殺して来てもようがすか。」
「うんにゃ。わがん[#「ん」は小書き]なぃ。生ぎだのだ。」
「ふうふう。かしこまた。」
油断をしてゐるうちに、達二はいきなり山男に足を捉《つか》まれて倒されました。山男は達二を組み敷いて、刀を取り上げてしまひました。
「小僧。さあ、来《こ》。これから俺《お》れの家来だ。来う。この刀はいゝ刀だな。実に焼きをよぐかげである。」
「ばか。奴《うな》の家来になど、ならなぃ。殺さば殺せ。」
「仲々づ太ぃやづだ。来《こ》ったら来《こ》う。」
「行がない。」
「ようし、そんだらさらって行ぐ。」
山男は達二を小脇《こわき》にかゝへました。達二は、素早く刀を取り返して、山男の横腹をズブリと刺しました。山男はばたばた跳ね廻って、白い泡を沢山吐いて、死んでしまひました。
急にまっ暗になって、雷が烈《はげ》しく鳴り出しました。
そして達二は又眼を開きました。
灰色の霧が速く速く飛んでゐます。そして、牛が、すぐ眼の前に、のっそりと立ってゐたのです。そ
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