消えぬひま。ホッ、ホ、ホッ、ホウ。」
[#ここで字下げ終わり]
 刀が青くぎらぎら光りました。梨《なし》の木の葉が月光にせはしく動いてゐます。
「ダー、ダー、スコ、ダーダー、ド、ドーン、ド、ドーン。太刀はいなづま すゝきのさやぎ、燃えて……」
 組は二つに分れ、剣がカチカチ云ひます。青仮面《あをめん》が出て来て、溺死《いっぷかっぷ》する時のやうな格好《かくかう》で一生懸命跳ね廻ります。子供らが泣き出しました。達二は笑ひました。
 月が俄《には》かに意地悪い片眼になりました。それから銀の盃《さかづき》のやうに白くなって、消えてしまひました。
(先生の声がする。さうだ。もう学校が始まってゐるのだ。)と達二は思ひました。
 そこは教室でした。先生が何だか少し瘠《や》せたやうです。
「みなさん。楽しい夏の休みももう過ぎました。これからは気持ちのいゝ秋です。一年中、一番、勉強にいゝ時です。みなさんはあしたから、又しっかり勉強をするのです。どなたも宿題はして来たでせうね。今日持って来た方は手をあげて。」
 達二と楢夫《ならを》さんと、たった二人でした。
「明日は忘れないでみなさん持って来るのですよ
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