ろのように落ちました。そこには桜草がいちめん咲いてその中から桃色のかげろうのような火がゆらゆらゆらゆら燃えてのぼって居りました。そのほのおはすきとおってあかるくほんとうに呑《の》みたいくらいでした。
若い木霊はしばらくそのまわりをぐるぐる走っていましたがとうとう
「ホウ、行くぞ。」と叫んでそのほのおの中に飛び込《こ》みました。
そして思わず眼《め》をこすりました。そこは全くさっき蟇《ひきがえる》がつぶやいたような景色でした。ペラペラの桃色の寒天で空が張られまっ青な柔《やわ》らかな草がいちめんでその処々《ところどころ》にあやしい赤や白のぶちぶちの大きな花が咲いていました。その向うは暗い木立で怒鳴《どな》りや叫びががやがや聞えて参ります。その黒い木をこの若い木霊は見たことも聞いたこともありませんでした。木霊はどきどきする胸を押えてそこらを見まわしましたが鳥はもうどこへ行ったか見えませんでした。
「鴾、鴾、どこに居るんだい。火を少しお呉れ。」
「すきな位持っておいで。」と向うの暗い木立の怒鳴りの中から鴾の声がしました。
「だってどこに火があるんだよ。」木霊はあたりを見まわしながら叫びまし
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