若い木霊
宮沢賢治
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)云《い》って
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|疋《ぴき》
−−
〔冒頭原稿数枚なし〕
「ふん。こいつらがざわざわざわざわ云《い》っていたのは、ほんの昨日のようだったがなあ。大抵《たいてい》雪に潰《つぶ》されてしまったんだな。」
それから若い木霊《こだま》は、明るい枯草《かれくさ》の丘《おか》の間を歩いて行きました。
丘の窪《くぼ》みや皺《しわ》に、一きれ二きれの消え残りの雪が、まっしろにかがやいて居《お》ります。
木霊はそらを見ました。そのすきとおるまっさおの空で、かすかにかすかにふるえているものがありました。
「ふん。日の光がぷるぷるやってやがる。いや、日の光だけでもないぞ。風だ。いや、風だけでもないな。何かこう小さなすきとおる蜂《すがる》のようなやつかな。ひばりの声のようなもんかな。いや、そうでもないぞ。おかしいな。おれの胸までどきどき云いやがる。ふん。」
若い木霊はずんずん草をわたって行きました。
丘のかげに六本の柏《かしわ》の木が立っていました。風が来ましたの
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